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トランプ米大統領VS連邦議会、問われる三権分立の真価

【産業・社会研究室】 Vol.9

2017年01月24日

内外政治経済

主席研究員
中野 哲也

 ドナルド・トランプ氏が米国の第45代大統領に就任した。就任前からトランプ氏はツイッター攻撃を展開し、メキシコから米国に製品を輸出する有力企業に圧力を掛けて"戦果"を上げている。今後、想定外の大統領は筋書きの無いドラマを演じ続け、超大国は迷走をするのか。それとも「世界最強の議会」ともいわれる連邦議会がその暴走にブレーキを掛け、三権分立の真価を発揮するのだろうか。

 法案が連邦議会の上下両院で可決しなければ、外交や国防などを除くと、大統領が望む政策もまず実現できない。米国の三権分立は日本のそれよりも厳格である。日本では政党執行部が国会で法案採決する際に所属議員に党議拘束をかけて造反を防止するが、米国の政党は原則として所属議員に党議拘束をかけられない。このため、大統領や党執行部の提案に反する所属議員の造反的な投票行動も、ワシントンでは決して珍しくない。

 しかしながら通常は、与党議員ならばやはり大統領の政策を基本的に支持する。現在、米国の下院(定数435)ではトランプ大統領の与党・共和党が241議席を確保し、野党・民主党は194議席にとどまり、その差は41議席もある。また、下院共和党の執行部はポール・ライアン議長をはじめ、トランプ大統領の政策に一定の理解を示している。

 これに対して、より権限の強い上院(定数100)では事情が異なる。共和党52議席、民主党(無所属を含む)48議席と拮抗しているからだ。計算上は共和党の上院議員3人が造反し、逆に民主党から造反が出なければ、トランプ大統領が通したい法案であっても賛成49対反対51で否決されてしまう。

 もしも50対50の可否同数になった場合はどうなのか。このケースでは最後に上院議長が特別に1票を投じて賛否を決する。上院議長は副大統領が兼務するため、トランプ政権下ではマイク・ペンス副大統領が最後の1票を投じ、51対50でトランプ大統領が勝利を収めるだろう。

 その上院共和党の執行部はミッチ・マコーネル院内総務やオリン・ハッチ財政委員長らに率いられ、下院とは対照的にトランプ大統領の政策には慎重な空気が流れている。伝統的に共和党は自由貿易と小さな政府を理念としてきたから、トランプ大統領の保護主義的な通商政策や財政の積極的な拡張は受け入れ難いのである。

 過去、歴代大統領は議会対策に頭を痛めてきた。国民の人気の高かったオバマ前大統領も与野党との調整に苦しみ続け、難産の末にようやく環太平洋経済連携協定(TPP)、医療保険制度改革(オバマケア)を成し遂げていた。ところが、トランプ大統領は1月20日の就任直後、前大統領から受け継いだ二大政治遺産(レガシー)というべきTPPとオバマケアを打ち壊す考えを表明した。

 政治に限らず、破壊はできても創造が難しい。本当にトランプ大統領はメキシコなどからの輸入品に対し、35%もの国境調整課税(BAT)を課すことができるのか。こうした法案を議会で通すことができるのか。メディアを通じて知る限り、忍耐強いとは思えないトランプ大統領が、粘り強い議会工作に成功する可能性は高くないようにも思う。

 トランプ政権の先行きは読めず、結末は全く予想が付かない。相当異例な事態ではあるが、4年後の任期満了を待たず、トランプ大統領が議会工作などに嫌気してペンス副大統領にバトンを渡すという可能性さえ排除できない。米国社会は三権分立の健全性を発揮し、大統領の暴走を阻止できるのか。そういう意味では、連邦議会の動向にこれから関心が高まるだろう。



20170123nakano.jpg米連邦議会議事堂(ワシントンDC・ペンシルベニア通り)

(写真) 中野 哲也

中野 哲也

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